Swallow LLM

Llama 3.1 Swallow

Llama 3.1 SwallowはLlama 3.1の英語の能力を維持しながら、日本語の能力を強化した大規模言語モデル (8B, 70B) です。モデルのパラメータ(重み)がHuggingFace上で公開されていますので、Llama 3.1ライセンスに従う限り、研究や商業目的などで利用できます。Llama 3.1 Swallowは米Meta社のLlama 3.1をベースに、東京科学大学情報理工学院の岡崎研究室と横田研究室、国立研究開発法人産業技術総合研究所の研究チームで開発されました。

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Llama 3.1 Swallow

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Llama 3.1 Swallowのライセンスは米Meta社のLlama 3.1ライセンスを継承しています。このライセンスに従う限りにおいては、研究および商業目的での利用が可能です。

Swallowの開発チームは、高い言語理解・生成・対話能力を発揮する大規模言語モデルの構築方法やメカニズムを明らかにするため、日本語に強い大規模言語モデルを目指して研究開発を進めています。 また、大規模言語モデルの開発の「レシピ」を探るため、研究チームで試作した大規模言語モデルの評価実験に加え、他の企業や研究機関で開発された大規模言語モデルの評価実験も行っています。 その実験回数は2024年4月から10月現在までで、400回を超えています。

Swallowプロジェクトでは、幅広い用途で利用できるように、また必要に応じて応用に特化したファインチューニングを行いやすいように、特定のタスクを性能を上げるのではなく、汎用性の高い大規模言語モデルを目指しています。 そこで、2024年度のSwallowプロジェクトでは、常識的な知識を問う質問応答タスク、言語生成能力を測定する自動要約や機械翻訳、一般教養を問う試験問題、論理的思考力を反映すると言われる数学やコード生成のタスクを取り入れ、日本語理解・生成タスクとして10件のデータセット、英語理解・生成タスクとして9件のデータセットで評価実験を実施しています。 また、日本語の対話能力を測定するため、GPT-4をジャッジとした日本語MT-Benchの評価を行っています。

全てのタスクにおいて、評価スコアは0 (最低) から1 (最高) までの範囲の値をとります。 なお、我々の日本語MT-Benchの評価結果が(たとえスコアを10倍して10点満点に換算しても)外部リーダーボードの評価結果よりも低いことが確認されています。多くの外部リーダーボードが応答文の評価にGPT-4 (gpt-4-0613) を利用していますが、我々はGPT-4 (gpt-4-1106-preview) を利用しているため、スコアの相違を引き起こしていると推測されます。調査の結果、我々と外部リーダーボードの評価結果には大きな差異があるものの、モデル間の順位はほとんど変わらないことが分かりました。そのため、(すでに多くの評価を完了していたこともあり)GPT-4のバージョンを変更せず評価を続行しています。 評価の詳細については日本語LLM評価を参照してください。

8Bベースモデル

大規模言語モデルの性能はモデルの規模(パラメータ数)が大きいほど高くなりやすいので、モデル構築のレシピの善し悪しを調査するには、同規模のモデルと比較するのが鉄則です。 ただ、より規模の大きい・小さいモデルと比較することは、利用者がモデルを選択するときの参考になるかと思いますので、Llama 3.1 Swallow 8Bの性能を13B以下の大規模言語モデルと比較します。 パラメータ数が13B以下の主要なベースモデルに関して、日本語理解・生成タスクの平均スコアの高い順に並べたグラフを以下に示します。

13B以下の主要なベースモデルの日本語理解・生成タスクの平均スコア

Llama 3.1 Swallow 8Bの日本語理解・生成タスクの平均スコアは0.4905となり、前バージョンのLlama 3 Swallow 8Bの平均スコア(0.4717)から1.88ポイント上昇し、オープンな8B以下の大規模言語モデルの中では最も高いスコアを記録しました。 また、Llama 3.1 8Bの平均スコアは0.4359ですので、継続事前学習により日本語理解・生成タスクの平均スコアを5.46ポイント引き上げたことになります。 Swallow 7B(2023年12月公開)、Swallow-MS 7B v0.1(2024年3月公開)、Llama 3 Swallow(2024年7月公開)と比較すると、Llama 3.1 Swallowは着実に平均スコアを伸ばしたと言えるでしょう。

Swallow以外のモデルに目を向けると、Qwen2.5 7BとGemma 2 9Bが良好な性能を示しています。 これらは多言語モデルですので、日本語に特化せずにこれだけの性能を出すのは凄いことだと思います。 Qwen2.5 7BとLlama 3.1 Swallow 8Bの間には、1Bの規模の差が表記上ありますので、Qwen2.5 7Bの性能の高さが際立っているように思えます。 ただし、パラメータ数を小数点以下1位まで表示すると、Qwen2.5 7Bは7.6B、Llama 3.1 Swallow 8Bは8.0Bです。両者の規模の差は0.4Bしかないとなると、印象が違ってくるかもしれません。 Gemma 2 9Bはこのクラスの大規模言語モデルの中で最強と言えるでしょう。 ただ、Gemma 2 9Bのより正確なパラメータ数は9.2Bですので、Llama 3.1 Swallow 8Bは1.2Bのパラメータ数の差がある中で、善戦していると言えるでしょう。

この3つのモデルの日英の言語理解・生成のタスクのスコアをレーダーチャートで可視化しました。 この結果から、Qwen2.5は数学(MGSMやGSM8K)や一般教養(JMMLUやMMLU)、コード生成(JHumanEvalやHumanEval)で高い性能を示し、Llama 3.1 Swallowは日本語の知識問題(NIILC)や日本語の言語生成タスク(XL-SumやWMT20 en-ja)を得意としていることが分かります。

Llama 3.1 Swallow 8B, Gemma 2 9B, Qwen 2.5 7Bの言語理解・生成タスクのレーダーチャート

8B指示チューニングモデル

同様に、パラメータ数が13B以下の主要な指示チューニングモデルに関して、日本語理解・生成タスク、日本語MT-bench、英語理解・生成タスクの平均スコアを示したグラフを以下に示します。 このグラフでは、日本語理解・生成タスクの平均スコアの順にモデルを並べています。

13B以下の主要な指示チューニングモデルのベンチマークの平均スコア

指示チューニング後のLlama 3.1 Swallow 8Bは日本語理解・生成タスクの平均スコアが0.5055となり、指示チューニングにより1.50ポイント上昇しました。 こちらも、オープンな8B以下の大規模言語モデルの中では最も高いスコアになりました。 また、Llama 3.1 Swallow 8Bの日本語MT-benchの平均スコアは0.5327で、前バージョンのLlama 3 Swallow 8Bの0.4766から5.61ポイントの上昇となりました。 さらに、Llama 3 Swallow 8Bは日本語で問いかけられても英語で応答する傾向がありましたが、Llama 3.1 Swallow 8Bでは日本語で応答するようになりました。 実際、日本語MT-benchの応答に含まれる日本語の文字の割合を調べると、Llama 3 Swallow 8Bが54.6%であったのに対し、Llama 3.1 Swallow 8Bは68.2%まで上昇しました(日本語MT-benchの応答にはプログラムコードが含まれますので、日本語の文字の割合が70%前後であれば正常と言えます)。 このように、指示チューニングモデルとして見たとき、Llama 3.1 Swallowはだいぶ進化していますので、今後はLlama 3.1 Swallowを利用されることを推奨します。

Swallow以外のモデルに目を向けると、ベースモデルと同様にQwen2.5 7BとGemma 2 9Bが頭一つ抜け出している印象です。 特にGemma 2 9Bの日本語MT-benchの平均スコア(0.6753)はGPT-3.5 (gpt-3.5-turbo-0125) の平均スコア(0.6661)を上回っていますので、このクラスの大規模言語モデルとしては驚異的な性能と言えるでしょう。 なお、Llama-3-ELYZA-JP-8BやLlama 3 Youko 8B InstructもLlama 3系列をベースにしたモデルですが、Llama 3.1 Swallow 8B Instructよりも日本語MT-benchの平均スコアがやや高く、日本語理解・生成タスクの平均スコアがやや低いという結果でした。 これらのモデルの性能の差はあまりないと思いますので、モデルを実際に使ってみて気に入ったものを選択するとよいと思います(ただ、Llama 3.1 SwallowはLlama 3.1ライセンスですので、使途が少し広いです)。

70Bベースモデル

続いて、Llama 3.1 Swallow 70Bのベースモデルの性能を分析します。 パラメータ数が20B以上の主要なベースモデルに関して、日本語理解・生成タスクの平均スコアの高い順に並べたグラフを以下に示します。

20B以上の主要なベースモデルのベンチマークの平均スコア

Llama 3.1 Swallow 70Bの日本語理解・生成タスクの平均スコアは0.5932で、Qwen-2.5 72Bの0.6232を下回る結果となりました。 また、前バージョンのLlama 3 Swallow 70Bの0.5934とほぼ変わらないスコアですので、我々の期待ほどは性能が伸びませんでした。 このような結果となった要因の一つに、今回の継続事前学習では英語の能力をできるだけ維持しようとしたことが挙げられます。

下の表は、継続事前学習の前後の関係にあるLlama 3とLlama 3 Swallow、Llama 3.1とLlama 3.1 Swallowについて、日本語理解・生成タスクおよび英語理解・生成タスクのスコアの平均値をまとめたものです。 Llama 3 Swallowでは継続事前学習で英語理解・生成タスクのスコアが1.56ポイント低下しているのに対し、Llama 3.1 Swallow 70Bでは英語理解・生成タスクのスコアが逆に1.46ポイント上昇しています。 このことから、Llama 3.1 Swallow 70Bモデルの継続事前学習において、英語の性能を落とさないように配慮しすぎたため、日本語の性能が伸び悩んだと考えられます。

Llama 3.1 Swallowの構築では、8Bモデルで日本語と英語の性能のバランスが良くなるように検証実験を行い、コーパスの配合を決定しました。 ところが、70Bモデルではむしろ英語の性能が上昇していますので、モデルの規模に応じてコーパスの配合を変える必要がある(70Bモデルの方が容量が大きいので英語を忘却しにくい?)かもしれません。 いずれにしても、英語の性能を引き上げる実験結果が得られたことは、日本語と英語の両方に強い大規模言語モデルの構築方法を探るうえで興味深い知見と言えます。

評価タスク Llama 3 70B Llama 3 Swallow 70B Llama 3.1 70B Llama 3.1 Swallow 70B
日本語理解・生成 0.5682 0.5934 (+0.0252) 0.5662 0.5932 (+0.0270)
英語理解・生成 0.6905 0.6749 (-0.0156) 0.6748 0.6894 (+0.0146)

Swallow以外のモデルで特筆すべきは、やはりQwen2.5 72BとGemma 2 27Bでしょう。 Qwen2.5 72Bは多言語モデルであるにも関わらず、このクラスでトップのスコア(0.6232)を達成しています。 上のグラフには載せていませんが、前バージョンのQwen2 72Bのスコアは0.5937でしたので、バージョン2.5で着実に進化したと言えます。 Gemma 2 27Bはパラメータ数が少ないにも関わらず、35Bや47BのMixture-of-Expert (MoE) モデルよりも高い性能を叩き出し、70Bクラスのモデルと肩を並べています。

70B指示チューニングモデル

最後に、Llama 3.1 Swallow 70Bの指示チューニングモデルの性能を分析します。 パラメータ数が20B以上の主要なベースモデルに関して、日本語理解・生成タスク、日本語MT-bench、英語理解・生成タスクの平均スコアを示したグラフを以下に示します。 このグラフでは、日本語理解・生成タスクの平均スコアの順にモデルを並べています。

20B以上の主要な指示チューニングモデルのベンチマークの平均スコア

Llama 3.1 Swallow 70B Instructの日本語MT-benchの平均スコアは0.6547で、前バージョンのLlama 3 Swallow 70Bの0.5809から7.38ポイントの上昇となりました。 8Bの結果も踏まえると、Llama 3.1 Swallowの指示チューニングが効果的であることが改めて示されました。 ただ、Llama 3.1 70B(継続事前学習前)の日本語理解・生成タスクの平均スコアは0.5945、Llama 3.1 Swallow 70B(継続事前学習後)の平均スコアは0.5887ですので、数字上は継続事前学習の効果が見えません。 これはSwallowチームにとっても期待外れの結果でしたが、各タスクのスコアの内訳(下図)を見ると、その原因が分かります。 Llama 3.1 Swallow 70B InstructがLlama 3.1 70B Instructよりも劣るのはコード生成(HumanEvalとJHumanEval)であり、逆に日本の質問応答(NIILC)では若干優れているという結果が得られています。 Llama 3.1 70B BaseとLlama 3.1 70B Instructの結果を比較すると、HumanEvalおよびJHumanEvalのスコアは指示チューニングで伸びていますので、コード生成に関してSwallowの指示チューニングに改良の余地があるかもしれません。

Llama 3.1 70B InstructとLlama 3.1 Swallow 70B Instructの言語理解・生成タスクのスコアの内訳

さて、Swallow以外のモデルに目を移すと、Qwen2.5 72B Instructが日本語MT-benchでGPT-4o (gpt-4o-2024-05-13) 並みの対話性能を示していることが分かります。 また、Llama 3 Youko 70B InstructやGemma 27B IT、Llama-3.1-70B-Japanese-Instruct-2407なども日本語MT-benchで高いスコアを出しています。 SwallowチームでもMT-benchで高いスコアを出せるように検討を進めていきたいと考えていますが、最近のモデルはMT-benchに過適合している可能性もあります。 日本語のオープンな大規模言語モデルもだいぶ性能が向上しましたので、そろそろ人間による評価 (Chatbot Arena: Chiang et al., 2024) や設問の難化 (Arena-Hard: Li et al., 2024) が必要な時期に差し掛かっているかもしれません。

Llama 3.1 Swallowは以下の手順で構築されています。

  1. Llama 3.1 Swallow ベースモデル: Llama 3.1 8Bと70Bのbaseモデルに対して継続事前学習 (Fujii et al., 2024) を行う(語彙拡張は無し)
  2. Llama 3.1 Swallow 指示チューニングモデル: Llama 3.1 Swallow ベースモデルに教師ありファインチューニング(SFT)を行う。

Swallow Corpus Version 2

Llama 3.1 Swallowの継続事前学習では、Common Crawlから配布されているアーカイブ全量(2013年から2023年に収集された94スナップショット、約2547億ページ)から日本語のテキストを独自に抽出・精錬した日本語ウェブコーパス(Swallow Corpus Version 2)が用いられています。 Swallow Corpus Version 2では、Common Crawlから約2547億ページをダウンロードし、その中から日本語と思われる約83億ページ(約12兆文字の日本語テキスト)を抽出しました(Common Crawl全体に占める日本語ウェブページの割合は3.2%でした)。 この規模は、前バージョンのLlama 3 Swallowで用いたSwallow Corpus Version 1 (Okazaki et al., 2024) の約4倍にあたります(コーパス構築時に対象としたウェブページの総数の比較による)。

Swallow Corpus Version 2ではコーパスの構築手順を変更し、大規模言語モデルの学習に向いているテキストデータを厳選しやすい構成としました。 Common Crawlは同一のウェブサイトを異なる時期に巡回・収集することがあります。 また、同一のウェブサイト上で加えられた軽微な修正や、転載などで内容が類似したウェブサイトが含まれることがあります。 大規模言語モデルを学習するときは、学習データの丸覚えを防ぐため、同じテキストでモデルの学習を繰り返すことは避けるべきと言われています。 そこで、大規模言語モデルの事前学習用のコーパスでは、重複したテキストを除去する処理、すなわち重複除去(deduplication)が行われます。 億を超える数のウェブページの組に対して、内容が似ているページの組を見つけ出す処理ですので、重複除去に膨大な処理時間と記憶容量が必要になります。 いわば、重複除去は事前学習用コーパス構築の難所です。

ウェブページ数の増加とともに重複除去に要する処理時間・記憶容量も増えますので、事前学習コーパスの構築では、ウェブページのフィルタリング(品質の低いウェブページを削除したり、品質の高いウェブページを抽出すること)を先に済ませておき、ウェブページの数を減らしてから重複除去を行うことが一般的です。 ところが、この処理フローで事前学習コーパスを構築してしまうと、フィルタリング処理を変更するたびに重複除去をやり直す必要があります。 そこで、Swallow Corpus Version 2では重複除去を先に済ませることで、フィルタリング手法を後から実験的に検討する(試行錯誤する)ことを可能としました。 この順番で事前学習コーパスを構築すると、必要な処理時間と記憶容量が増えるため重複除去が難しくなりますが、Swallowチームでは約1か月かけて日本語の全ページ対を対象とした重複除去を行いました。重複除去後の日本語ウェブページの規模は、19億ページ(3.2兆文字)でした。

教育的価値の高いテキストの厳選

前バージョンのLlama 3 Swallowでは、事前学習データセットの配合を工夫し、質問応答(NIILC)や機械翻訳(WMT20)など、日本語の知識に関するタスクで性能を改善しました。 一方で、一般教養(JMMLU)のタスクでは有意な改善が見られず、Swallowプロジェクトの課題の一つとなっていました。 そこで、最新の研究(FineWeb-Edu (Penedo et al., 2024), DataComp-LM (Li et al., 2024), Dolma 1.7 (Ai2, 2024))を参考にして、Llama 3.1 Swallowでは少量の「教育的」なテキストを厳選するアプローチを採用し、一般教養タスクの性能向上に取り組みました。

具体的には、STEM や社会科学のような学術分野の日本語 Wikipedia の記事を「教育的」なテキストの好例と見なし、それら約6万文書を正例として教育的なテキストのFastText分類器を学習しました。この分類器は検証データセット上では99%以上の正解率を達成し、学術分野のWikipedia記事に近い「教育的」な文書を高い精度で抽出することができます。また、FastText分類器はCPU上で高速に動作するため、Swallow Corpus Version 2の規模にもスケールする軽量な分類器を構築できました。

また、この分類器の導入により、Swallow Corpus Version 1で用いていたヒューリスティック・ルール(ひらがなの割合など)に依存せずに品質フィルタリングが行えるようになりました。そこで、Swallow Corpus Version 1で用いられていたヒューリスティック・ルールの検証を行い、適切なルールのみを残しつつ、今回構築した分類器による品質フィルタリングと併用しました。これにより、単に低品質な文書を除去するだけでなく、「教育的」な文書をより多く抽出するように工夫しました。

適用を取りやめたルールの例

  • テキストの最も長い文の文字数(長すぎる文があるとテキストを除去)
  • 重複して出現するn-gramの割合(割合が多いとテキストを除去)

継続して適用したルールの例

  • テキストの文の文字数の平均(文字数が多すぎたり、少なすぎる場合はテキストを削除)
  • テキスト中のひらがなの割合(少なすぎる場合はテキストを削除)

これらの取り組みを評価するため、Llama 3.1 Swallowの構築前にアブレーション実験を行いました。 その結果、分類器の導入やヒューリスティック・ルールの調整により、一般教養(JMMLU)や翻訳(WMT20)をはじめとする複数の日本語タスクの性能が向上することを確認しました。 特に、ヒューリスティック・ルールと分類器を併用した場合、その他の実験設定よりも高い性能を達成し、「教育的」な日本語テキストの抽出が有効に機能することが分かりました。

ただし、算術推論(MGSM)だけは負の影響が確認されました。 Llama 3.1 Swallow の学習では別途、数学的なデータセット(Cosmopedia)を追加することでこの影響を緩和できていますので、実際の継続事前学習時には問題にならないと考えています。

実験パターン JCom. JEMHopQA NIILC JSQuAD XLSum MGSM WMT-20 (en-ja) WMT-20 (ja-en) JMMLU JHumanEval
従来のヒューリスティック 88.6 45.6 56.1 89.1 19.7 34.4 26.1 17.8 45.7 22.3
従来のヒューリスティックと分類器の併用 88.5 53.4 59.5 89.2 19.7 27.2 28.0 18.5 46.4 23.1
調整したヒューリスティックと分類器の併用 89.1 55.3 60.7 89.5 20.9 28.4 29.7 22.6 48.4 24.1

アブレーション実験の設定

  • Llama 3 8Bをベースとして、合計50Bトークンの日本語コーパスで継続事前学習を行う
  • 日本語コーパスの内訳はいずれも、日本語Wikipedia(1.69Bトークン)と Swallowコーパス(48.31Bトークン)であり、Swallowコーパスに適用する品質フィルタリング設定のみを変更した
  • 分類器を導入した実験設定では、ヒューリスティック・ルール適用後のSwallowコーパスのうち、分類器のスコア上位10%のテキストのみを抽出した

Llama 3.1 Swallowの構築においても、8Bモデルの一般教養(JMMLU)がLlama 3 Swallowと比較して8%以上のスコアの改善が見られるなど、教育的価値の高いテキストの厳選の効果を確認できました。

継続事前学習における英語での能力の維持

継続事前学習で大規模言語モデルの日本語能力を強化すると、大規模言語モデルが元々持っていた能力(主に英語の言語理解・生成能力)が低下する傾向が観測されます。例えば、Llama 2 7BからSwallow 7Bへの継続事前学習では英語の言語理解・生成タスクの平均スコアが6.1ポイント低下、Llama 2 70BからSwallow 70Bでは2.7ポイント低下しています。大規模言語モデルに日本語を教えるには、英語での能力低下を想定しておく必要がありますが、算術推論、一般教養、コード生成などのタスクに関しては、英語で習得した能力が日本語に転移しやすいので、元の能力を維持することが望ましいです(齋藤ら, 2024)。

Llama 3.1 Swallowの開発を進めるにあたり、一般教養タスクとコード生成タスクの性能を改善するための学習データの選別を行いました。その結果、一般教養タスクで効果を示したDataComp-baseline、コード生成タスクで効果を示したThe Stack v2などのデータセットを採用することに決定しました。さらに、予備実験で最適なデータセットの配合を探索したところ、Llama 3.1 8BからLlama 3.1 Swallow 8Bへの継続事前学習では英語の言語理解・生成タスクの平均スコアが0.6ポイントの低下に留まり、Llama 3.1 70BからLlama 3.1 Swallow 70Bへは逆に1.4ポイントの向上が得られました。

以下に、Swallow 7BおよびLlama 3.1 Swallow 8Bの継続事前学習前後における英語の言語理解・生成タスクのスコアをレーダーチャートで示しました。Swallow 7Bでは各タスクのスコアの低下が目立つのに対し、Llama 3.1 Swallow 8Bではスコアの低下が抑えられています。このようなデータセットの取捨選択・配合に関する知見は、日本語と英語の両方に強い大規模言語モデルの構築方法を探るうえで重要な成果です。

継続事前学習の前後での英語の言語理解・生成タスクのスコアの変化

継続事前学習で用いたコーパスは以下の通りです。

合成データによる対話能力の向上

大規模言語モデルの対話能力を向上させる鍵は、多様かつ複雑な指示、および有用かつ流暢な応答からなる学習データで指示チューニングをすることにあります。理想的には、大規模言語モデルに寄せられる問いかけのデータを収集し、適切な応答を人手で付与したデータを構築することが望ましいですが、これには膨大な時間と労力が必要です。研究チームは、短期間かつ安価に学習データを構築するため、高い対話能力を有する既存の大規模言語モデルの応答を模倣するアプローチを採用しました。具体的には、人間と大規模言語モデルの対話履歴を収録したLMSYS-Chat-1Mデータセットの指示文を邦訳し、オープンなモデルの中でトップクラスの対話能力を有するLlama 3.1 405B Instructを用いて応答文を自動生成しました。また、Llama 3.1構築の方法論に倣い、複数の応答文を生成してからLlama 3.1 70B Instructに選好を自動採点させ、最良の応答文を選択するという工夫を取り入れました。さらに、重複する指示文や機械的な指示文、無用な繰り返しを含む応答を検出・削除することで、データの品質を向上させました。

指示チューニングで用いたデータは以下の通りです。

日本語の指示チューニングデータ

  • lmsys-chat-1m-synth-ja-wo-pii-and-template-instructions: lmsys-chat-1m (Zhang et al, 2024) から合成した日本語シングルターン指示・応答データセット。1ターン目の人間の指示文をDeepL(機械翻訳)で邦訳し,邦訳した指示文に対してLlama-3.1-405B-Instructでアシスタントの応答文を生成した。その後、Llama-3.1-70B-Instructの自動採点によって棄却サンプリング (n=6) を行った。なお、個人識別情報 (PII) を含む対話、テンプレートベースの指示文、および重複する指示文は削除した。
  • filtered-magpie-ultra-ja: filtered-magpie-ultra-en データセットの日本語版。gemma-2-27b-itによって日本語に翻訳された。
  • gemma-magpie: gemma-2-27b-itを用いてゼロから合成した、日本語の質問応答データセット。各トピックに特化したプロンプトで指示文を生成し、生成した指示文に対してアシスタントの応答文を生成した。その後、品質および文長さに関するヒューリスティック・ルールでフィルタリングを行った。

英語の指示チューニングデータ

  • lmsys-chat-1m-synth-en-wo-pii-and-template-instructions: lmsys-chat-1mオリジナルの英語の指示文に対して、lmsys-chat-1m-synth-ja-wo-piii-and-template-instructions と同様の方法で英語の応答文を生成した。日本語版と異なり、棄却サンプリングは省略した。
  • filtered-magpie-ultra-en: MAGPIEの方法論 (Xu et al., 2024) に倣ってLlama-3.1-405B-Instructによって作成された指示チューニングデータ magpie-ultra のサブセット。具体的には、average以上の評価が付与された事例のみを抽出。

分散並列学習における処理速度の向上

大規模言語モデルの学習では、多数のGPUを用いた分散並列学習が用いられます。利用するGPU数を増やすことで、モデル学習の全体としての処理速度は速くなりますが、GPU間の通信がボトルネックとなるため、1GPUあたりの処理速度(計算効率)が低下する傾向にあります。そこで、計算と通信をきめ細やかに織り交ぜることで、計算効率の低下を抑える工夫を導入しました。これに加えて、分散並列学習の設定を再検討し、Llama 3.1 Swallowを学習する上で最適な設定を探索しました。Llama 3.1 Swallowの継続事前学習における1GPUあたりの処理速度(TFLOP/s)、すなわち計算効率を下に示しました。この図が示すように、マイクロバッチサイズ=2の設定では、A100(40GB)の環境でLlama-3.1-Swallow-8Bを128GPU(16ノード)で大規模言語モデルを学習する際でも、8GPU(1ノード)で学習する場合と同等以上の計算効率(184.9 TFLOP/s)を達成できることを確認しました。

Llama 3.1 Swallowの継続事前学習における1GPUあたりの処理速度

また、GPU数が増加すると意図せぬ形で学習が停止することがあり、これが大規模言語モデルの学習効率低下の要因となることがありました。Llama 3.1 Swallowの継続事前学習では、通信に関する設定を調整することで、途中で意図せずに学習が止まるケースを大幅に削減し、計算資源の利用効率を高めることに成功しました。

参考文献

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大規模言語モデルSwallowの研究開発は、産総研政策予算プロジェクト「フィジカル領域の生成AI基盤モデルに関する研究開発」、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「次世代人工知能・ロボットの中核となるインテグレート技術開発」プロジェクト(JPNP18002)の「熟練者観点に基づき、設計リスク評価業務における判断支援を行う人工知能適用技術の開発」、文部科学省の補助事業「生成AIモデルの透明性・信頼性の確保に向けた研究開発拠点形成」、その他の支援によって実施されました。また、学習した大規模言語モデルの評価実験では、LLM-jp (LLM勉強会)で開発されているデータや知見を活用しました。

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